【子供の健康】1歳までに症状が出ることが多い鼠径ヘルニア
鼠径(そけい)ヘルニア、臍(さい)ヘルニアは、乳児によく見られる疾患の一つです。太ももの付け根(鼠径部)が泣いたりしたときに膨らんだり、へその緒がとれた後にへそが飛び出てきて、家族が心配して受診することがよくあります。帯広厚生病院小児科主任部長・植竹公明先生の協力で、鼠径ヘルニア、臍ヘルニアについてまとめました。
太ももの付け根付近に膨らみ
鼠径ヘルニアとは、一般には脱腸(だっちょう)と呼ばれています。太もも付け根の少し上(鼠径部)から陰部にかけて盛り上がる疾患で、女児よりも男児の割合が多く、腸などが皮膚下に出てくる疾患です。男児は、胎児期に骨盤部にできた精巣が陰嚢(いんのう)まで下がっていく過程で、おなかの中で内臓を覆っている膜(腹膜)も一緒に引きずられ、腹膜が陰部に向かって突出した形になり、「腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)」と言います。女児では子宮を支える子宮円じん帯が恥骨に固定される際に腹膜鞘状突起ができます。通常、この突起は生まれる前に、腹部で閉じてなくなりますが、袋状(ヘルニア嚢)になって鼠径部に残ることがあります。腹部に力がかかったときに、ヘルニア嚢に腸など臓器がはまり込んで、鼠径部が盛り上がります。また、女児では卵巣がはまり込むことがあります。
飛び出す部分を腹腔鏡手術で閉じることも
小児の約1~4%に見られる鼠径ヘルニアは、1歳までに症状が出てくることが多く、約40%は生後6カ月以内に起こっています。出てきた臓器は医師が手で圧迫して戻すことは可能ですが、ヘルニア嚢が自然に閉じる可能性は低く、臓器が出てくることを繰り返します。最近の治療は、腸などが出てくる場所「ヘルニア門」を腹腔鏡手術で閉じることが多いです。飛び出した腸などは自然におなかの中に戻ることも多いのですが、なかなか戻らずにヘルニア門で締め付けられて血行障害を生じることがあります。この状態を嵌頓(かんとん)と呼びます。膨らんだ場所が赤みを帯びて固くなり、痛みやおう吐、発熱などを伴うようになり、長時間続くと腸が壊死(えし)してしまうこともあります。嵌頓を繰り返すと精巣が萎縮してしまうこともあります。嵌頓と診断された場合は、緊急手術が必要なことがあります。
へそが出る臍ヘルニアは自然に治ることが多く
臍ヘルニアは、生後間もなく「へその緒」が取れた後に、へそが飛び出してくる状態で、デベソのことです。生まれて間もない時期は、へその真下の筋肉が完全に閉じていないため、泣いたりするなどして、おなかに力が加わったときに、筋肉の間から腸がはみ出してきます。鼠径ヘルニアと違い、飛び出した臓器が嵌頓する可能性は低いです。主に経過観察となります。飛び出したへそを触るとやわらかく、グジュグジュとした感触がします。生後3カ月までは大きくなりますが、寝返りの準備段階として手足を盛んに動かし、おなかの筋肉が発達する生後3カ月半ごろから縮小しはじめ、多くの場合1歳までに自然に治ります。テープで圧迫する方法が有効かどうかは、まだ分かっていません。また医師によって考えもさまざまなようです。治っても皮膚が過剰に伸びたままの状態になる症状を「臍突出症」と言います。1歳を過ぎるころには形はほぼ固定するので、見た目の問題から形を直す手術をすることもあります。
鼠径ヘルニアにしても臍ヘルニアにしても飛び出した部分が簡単に押し戻せず、皮膚が赤紫色に腫れて赤ちゃんが不機嫌ならば、嵌頓の可能性があります。このような時は急いで病院を受診する必要があります。
取材協力=帯広厚生病院小児科主任部長:植竹公明先生
この特集記事は十勝の生活応援マガジン「Chai」に掲載された「Chai子供の健康」を再編集したものです。
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