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十勝で7年ぶりに開かれた日本ホスピス・在宅ケア研究会全国大会(2、3日、帯広市内)で、ノンフィクション作家柳田邦男さんが「絵本」をテーマに講演しました。十勝毎日新聞の採録記事を紹介します。

【2019年2月6日付十勝毎日新聞に掲載】


◆◆◆◆◆

 絵本には、人生に3度、読むといい時期がある。1度目が幼いとき、2度目が子育てのときだ。簡単な言葉だが、大切なことが書かれている文章と、印象的な絵が描かれた作品が、子どもの心の成長や感情の発達を助けてくれる。必ず声に出して、肉声で読み聞かせてあげてほしい。

 子どもが中学生になると押し入れのなかに追いやられたりするが、子どもが大きくなって子育てに直面するときが来たら「昔読んだものだよ」と言って、渡してあげるといい。子どもは「そうだった」と言って、またわが子に読み聞かせる。そうした家庭の文化が根づくと、そこには豊かな家族関係が生まれる。

 3度目に読むといいのは、子どもが独立したり、自らが年老いて、孤独や病にさいなまれたときだ。難しい哲学書や小説を読むのはしんどいが、ゆっくりと声に出して絵本を読む行為は、ずんずんと心の深いところに響く。

 私自身、50代に入って間もなく、そうした体験をする機会があった。次男が自らの命を絶ってしまったとき、絵本を読んで人生の神髄にふれた気がした。息子が亡くなる1カ月前、私の誕生日にサン=テグジュペリの「星の王子さま」の新装版をプレゼントしてくれた。

 私は全集を持っているくらいサン=テグジュペリが好きで、星の王子さまも何度も読んでいた。ただ、息子が死んだ後、ふと本を手に取ると、ページをめくる手が止まらなくなった。

 「大切なものは目に見えないんだよ。心で見なくちゃね」という有名な一節。私は息子のことをきちんと見ていただろうか、彼の心のなかにある苦悩に目をこらすことができていただろうか…と胸を打たれた。

 そうして「絵本は、作家が人生で一番大事なことを書いている」と感じて以来、絵本を改めて読み直す生活が始まった。

 亡くなった人は、周囲の人の心のなかで生き続ける。これは終末期医療やグリーフケアのなかでも大事なテーマだが、この考え方は絵本のなかにも息づいている。スーザン・バーレイの作品「わすれられないおくりもの」もそのひとつだ。

 私は毎年、東京都荒川区の子どもたちに絵本を読んでもらい、感想の手紙をもらう取り組みを10年以上続けている。そのなかでも絵本が子どもたちの喪失体験を癒やし、豊かな心を育てることがわかっている。

 最近出合った絵本のひとつ、荒井良二さんの作品「きょうというひ」も素晴らしい。ろうそくの火を「祈り」のモチーフとし、美しい絵とともに、「きえないように、きえないように」とささやくように言葉が繰り返される。

 悲しいニュースが続く世の中で、私は何もできない身だが、消えないようにと祈ることは続けたいと思う。(奥野秀康)

<プロフィル>
 1936年栃木県生まれ。ノンフィクション作家。72年に第3回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。

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